戸建て借りてくれたのは、40代半ばの父親と成人間近の息子、そして従兄弟というちょっと変わった構成だった。

父親の名前をネットで叩くと、胡散臭さを感じるページばかりに行き着いた。しかし、僕は入居者の素性などどうでもよくて、借りてくれて家賃さえキッチリ払ってくれればどんな人にでも貸す方針なので、その担保が取れた段階で特に気にもしなかった。

 

しかし、その報告を受けたのは貸してから10ヶ月程経った頃だった。

 

「家賃が滞っているので、立ち退き訴訟をしようと思います」

 

と、保証会社からの連絡。ちなみに保証会社とは入居者が家賃滞納した場合、代わりに支払ってくれる会社である。滞納者が1/5程度いる昨今、どんなに素性の良い人でさえ滞納する時代だし、2020年4月より民法が改正され、連帯保証人での契約が少し厳しくなる状況では保証会社を利用するのは現状では必須と言える。

入居者はお金に困っているような人では無かったけど滞納…何があったのだろう。まぁ、滞納事故を起こすと日本では物件を借りるのが厳しくなった今では、家賃の滞納だけはしてはいけない。なんせ日本に住む資格を失うようなものだから。

後々聞くところによると、父親が事件を起こして警察の厄介になっていた間に家賃が滞り、シャバに戻ってきたもののすぐに仕事が見つからなかった事が決定打だったらしい。

そんな訳で、僕の誕生日で今回から祝日ではなくなった12/23に強制執行(家の中の物を裁判所の命令で運び出し、強制的に貸室から追い出す事)が行われた。

こうなると、考えるのはこの戸建てを「また貸す」か「売るか」となる。

今回は、売りにも出しつつ、貸し出しも募集するという手段を採った。10万で貸していた実績もあったので売価は1150万。そこそこ強気な値段設定だった。

しかし、時代が変わっていたのか、問い合わせが雪崩のように押し寄せて、程なく買付(売買の申込は「買い付け」と言います)が入った。

買主の要望は1000万という指値。コンビニで120円で売っているジュースを100円にまけてくれ!みたいな申し出だった。

1年間の家賃収入もあったお陰か、所有者もそこで折り合いを付けてくれた。後は買主のローン審査を待つばかりだった。

1週間して、出てきた答えは「否決」

どうやら、本件以外に何本かローンを組んでいた事が原因だった。この他に落ちる理由としては、携帯料金の未払い、あとは収入に見合わない物件を買おうとしてるくらいしか思い付かない。

他の銀行に複数当たる…との事で申込をそのままにしていたら、意外な事に2番手の申込が入った。2番手の条件が、

 

「1150万の満額で現金支払い」

だった。ローンを組んで買うとなると、審査落ちのリスクもあって、落ちたら案件がご破産になる「ローン特約」を結んで契約をする事になるが、現金の場合はそんな心配もない為、所有者の心は一気に2番手に流れていた。

1番手には、満額現金の2番手が現れた事を伝え、諦めて貰おうと連絡をしたのだけど、返ってきた答えは「満額で買います」という意外な答えだった。

1番手が買い上がると2番手には待ってもらうしかないので、その旨を伝えて再度ローンの結果を待つ事1週間…結果は「否決」だった。

これで完全に1番手が降りた状態で2番手に話を持っていくと「1番手が通ると思って、他の物件に買付を入れてしまった」という残酷な答えだった。こうなると、今まで複数から買付が入っている強気な立場から一転、何とか買って欲しいという弱気な立場に成り下がってしまった。

買主の家族会議が行われ、1週間程待った結果、こちらを選択頂き、契約に至った。

結果、1150万で売れて、120万の家賃も手にした所有者は、当初の希望金額で売れた訳である。しかも、売買契約の際、買主から言われた言葉が「お買い得な物件が買えて良かった」という意外なものだった。

980万でもうんともすんとも言わなかった物件が1200万で多数問い合わせを頂き、実需1150万ですんなり売れた。相場というのは常に変動していて面白い。

そんな訳で、不要な不動産があったら不要に売ってしまうのは勿体ないかもしれないというお話でした。活用方法はいくらでもある訳だ。

売買の業者に相談したら当然「売りましょう!」になってしまっただろう。でその時ならば1000万以下だった。しかし、貸す事で凌ぎ、売るべきタイミングで売れたのは大きい。そういった判断が出来るのも不動産の面白いところだし、相手の資産を生み出す事を提案出来た僕のお陰だなという事が1/3でも伝われば幸いです。